2022

10.28

INTERVIEW

私が選んだポスター/石黒篤史(OUWN)

「POSTERS」でポスターを購入されたことをきっかけに、購入者の仕事や生活についてお話を伺いました。

石黒さんが選んだ作品:たかが紙 されど紙:Order A ー紙の上に起きた出来事とその景色ー / 植原亮輔

石黒篤史(OUWN)/1983年、東京生まれ。佐野研二郎主宰のMR_DESIGNを経て、 2013年に「OUWN株式会社」を設立。アートディレクションから、グラフィックデザイン、サイン計画、web設計など多角的に企画立案製作に携わり、設立当初より継続的に国内外でデザイン賞を多数受賞。Design Workの他に「People and Thought.」といった、デザインを基軸に置きつつ、人の思考や現代の当たり前の感覚など、ベーシックとされてしまった思考に対して「疑問を見い出す」をテーマにした芸術活動・展示・作品製作も精力的に行う。自身が代表を務めるOUWN(オウン)は、私たち(OWN)とあなた(U)との共感・共有ができるようにと名付けられた造語。



Q. はじめにKIGIの植原亮輔さんの作品を選んだ理由を教えてください。

A. 純粋に植原さんの作品が好きで、この作品の持つ抜け感や繊細な印象をオフィスに取り入れたいと思いました。自分がつくる作品は色だったり構図だったり結構強い雰囲気のものが多くて、部屋の中までそうだと息が詰まっちゃうんで。空間は少し柔らかくしたかったし、自分の中にそういった作風を取り入れていきたいという思いもありました。


Q. 作品のどんなところが気に入っていますか。

A. 全体のくすんだモスグリーンの色合いや、上に乗っている白から下地が透けている感じ、あとは手書きの味わいとか・・。モチーフ自体は無機質なんだけど、どこかやわらかな印象があって。筆記体の文字は手書きを取り込んでいると思うのですが、そういったディテールが実際にはどんな見え方をしているのか、など創作上の興味もありました。


Q. 実際に空間に置いた印象はいかがですか。

A. 周りの植物に違和感なく溶け込んで、ひとまとまりに見える風景を想像していたのですが、実際は少し違いました。植物の有機性と作品の幾何学のモチーフや細い線のギャップが良い意味で新鮮で、空間をぐっと引き締めてくれたように感じます。


Q. 石黒さんのポスターにまつわる記憶を教えてください。

A. 僕が学生の頃はグラフィックデザイン全盛期で、KIGIさんや柿木原(政広)さんのようなドラフトの方々や、佐野研二郎さんや水野学さん、挙げていったらキリがないですが、そういった一線で活躍していたデザイナーたちのポスターが生活の中で自然と目に入ってくる環境でした。新しい技法も手段も秒単位で生まれているとさえ感じ、まさに手に汗握るような気持ちで眺めていた記憶があります。


Q. 特に印象に残っている作品はありますか。

A. 水野さんの「K.K.P」のポスターとか好きでしたね。架空のチケットをたくさんつくって並べた作品とか、ポスターじゃないですがD-BROSのカレンダーで、型抜きは同じだけど表裏でデザインが違うとか。広告でいえば、佐野研二郎さんのとしまえんの広告は爽快で、強く印象に残っています。当時は印刷や加工の技術を駆使しながら新しい表現に挑戦していくような作品も多くて、すごく憧れました。


Q. ご自身の作品で影響を受けている部分もありますか。

A. 自分も常に新しいモチーフや構図、表現の技術を探求していきたいと思っています。まったくのフリーよりも、何かルールを課してその中でバリエーションを考えることが多いです。今回購入した植原さんの作品もルールがある中での表現で、そうしたアプローチにも惹かれました。あえて縛りをつくることで、そこから新しいものが生まれたらいいなと思っています。


Q. クライアントワークを中心に置きながら、自主的な創作活動とも言える「People and Thought.」も展開されていますね。

A. クライアントの意向をリードしながら、そのブランドに寄り添ったアウトプットを出す方が得意かもしれません。ただ自由演技が得意でないというコンプレックスからも脱却していきたくて、新しい表現を模索する場をつくりました。「People and Thought.」での作品は、自分の面白いかどうかという感覚で、新しい構図のバリエーションを手当たり次第一気につくってみたりもします。そういったアプローチが自分の中の幅を広げていく実感もあり ますし、その中で出会ったモチーフや技術をクライアントワークに取り入れたりもしています。

People and Thought.を介して石黒氏が制作した作品の数々。プロダクトデザイナーの三上嘉啓氏と 共作した日や時間・太陽光に同調する4枚のアクリル板で構成された花器「Light in Your Time」(photo:1)や、江戸時代の絵師・長沢蘆雪の「虎図襖」を題材にした「虎(ねこ)は明日も私の花瓶を決まって倒す」展示図録(photo:2)、古代の酒造方法から着想を得て、極限まで米を磨かずに絞っ た阿武の鶴酒造の日本酒「90(苦渋)の黒」(photo:3)、華道家の展覧会告知ポスター(photo:4)は 表裏の印刷で花が透けて表のデザインに干渉している。ポスターだからこその面白さが詰まったものになっている。

Q. 石黒さんにとって紙のポスターはどのような意味がありますか。

A. 一点ものの絵画から、量産されたグラフィックのポスターがあって、もしかしたら今はデジタル9割の時代かもしれない。絵画とポスターの間にあったものとは比べものにならない距離が、デジタルとリアルの間にはあるようにも感じます。もっと両者を近づけられないかとも、逆に離れさせるだけ離れさせたらいいんじゃないかとも思います。デバイスを通して作品を見ても、動的なものに新しい発見を感じますが、極端に言えば明るくも暗くも、拡大・縮小も、自由にユーザーが変更できてしまいます。紙のポスターの場合、一定の制限の中に、空間に応じた佇まいや、質感から受ける印象、斜めから見たら違った発見があるとか、時と場合・空間と合わさることで、同じポスターでも感じ方が全然違います。希少性が増しているからこそ、そういった物質から受ける感覚の大事さや意 味も増しているんじゃないかと思います。



石黒篤史さんが選んだポスターを見る