2022
03.23
INTERVIEW
ポスターとの出会い / 大原大次郎
ポスターを認識した最初の記憶、若い頃に影響を受けた作品、自身がポスターと対峙したエピソードまで、「ポスターとの出会い」をテーマに、今回“POSTERS”に出品するグラフィックデザイナーの皆さんにお話を聞きました。
自分の興味に加えて時代背景もあるのか、大型のポスターよりも小型のグラフィックに親しんできたように思います。紙モノだと、雑誌やレコードのジャケット、フライヤー、ステッカーとか。ポスターという括りで思い返すと、雑誌に折り込まれた付録のポスターを部屋に貼ったりしていました。
これは雑誌「BRUTUS」(2015年2月15日号)に付いていたホンマタカシさんのポスターです。ホンマさんがハワイのノースショアで撮り続けられている、「NEW WAVES」シリーズのもので、表裏で異なる波の写真がプリントされています(デザインは雑誌「relax」のアートディレクターを務められていた、小野英作さんによるもの)。
中高生の頃には、「少年くそマガジン」という、買ったレコードを友人で好き勝手にレビューする壁新聞のようなものを作っていました。当時の仲間には、現在もDJやトラックメイカーとして活動しているLatin Quarter(空手サイコ)君もいて、高校生の頃は彼のカセットテープのジャケットをデザインしていました。デザインと言っても、その頃はみようみまねのコラージュのような手法で作っていて、それこそホンマタカシさんの写真を勝手にサンプリングしていたりもいたのですが、奇しくもその後初めてお会いして、参加することができた展覧会(「ニュー・ドキュメンタリーサテライト展〈Our Mountain〉」会場UTRECHT/NOW IDeA期2011.4.26-5.15 )が、ホンマさんの写真を引用してReconstruction(再編集・再構築)するという、自分にとっては夢のような内容だったんです。
そのサテライト展では、ホンマさんの山岳写真に、登山図をもとにしたドローイングを構成したシリーズを制作し ました。その後 2013年に「稜線展」という連名での展覧会を催することになります。展覧会に合わせて制作したB2サイズのポスター(オフセット+シルクスクリーン)が、自分にとって初めての自主制作のポスターになりました。
写真と構成している稜線のドローイングは、登山地図から文字情報や地図号を取り除いて線だけにしたものがベースになっています。写真から窺える対象との距離感を考えて、自分で描いた文字や線を構成するのではなく、登山家の方々の足跡を再編するという方法を取っています。
「少年くそマガジン」なんかは今見ると自我が全開で、対象との距離が近すぎて目も当てられません(笑)。距離感の捉え方は、音楽に携わる方たちとの仕事の影響も大きくあると思います。音楽という目に見えにくい抽象的なものを視覚的に翻訳するときに、音の読解力のようなものが求められたりもします。アーティストも聴き手もそのずれや違和感には敏感です。そういった中で音楽とグラフィックの距離を探っていく経験が、とても大きな糧となっています。
今回「POSTERS」のために制作した新作のポスターは、日常の風景を定点観測したようなシリーズですが、実はオンラインゲームなどで使用されているリアルタイムレンダラーで生成した架空の風景です。既視感のあるような郊外の風景や、未確認飛行物体が写りこんでしまったような”ちゃっかり感”というか、”いけどり感”というか。モビールが持つ時間性や対象との距離をスクショするような感覚で風景を書き出し(レンダリング)しています。
部屋の壁に自然に貼ってあるものってなんだろうと考えたときに、実家によく貼られているカレンダーを思い起こしました。その型を用いて、上にビジュアル、下には時刻を表す概念(時計の長針と短針)を記しています。季節 や時間帯の設定を変えながら、同じ画角の風景でも光の差し方やモビールの表情や影のニュアンスがそれぞれ異なるシリーズになっています。ご自身の好みやお部屋との相性で選んでいただけたらうれしいです。