2022
06.22
INTERVIEW
ポスターとの出会い / 田中良治
ポスターを認識した最初の記憶、若い頃に影響を受けた作品、自身がポスターと対峙したエピソードまで、「ポスターとの出会い」をテーマに、今回“POSTERS”に出品するグラフィックデザイナーの皆さんにお話を聞きました。
僕がデザインの勉強を始めたのは、同志社の工学部を経て、IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)に入ってから。幼少期からグラフィックデザインが好きで憧れてというわけではなかったので、印象的な「ポスターとの出会い」は特にないのが本音です。ただ、ポスターではないですが、中学生の時に買ったXのCDジャケットは仲條さんのデザインでした。当時は知る由もなくだいぶ後になって知りましたが、グラフィックデザインって結構そういうものだなと思います。美術館に行かないと出会わない絵画と違って、グラフィックデザインは意外と日常生活の中に接点がある。消費されるものに適用されるから、中流家庭育ちでアートやデザインとほとんど無縁だった自分でも、知らぬ間にうっかり出会っている面白さを感じます。
同志社では物理化学が専攻でしたが、卒業後はメディアアートの専修学校として設立間もないIAMASに進学。当時「マルチメディア」という言葉が流行り、デジタルメディアによる表現が注目され始めた時代で、IAMASにも新しいことをやりたい人たちが集まってくる雰囲気でした。岐阜県にある周りは田んぼしかないような環境でしたが、当時まだ珍しかったコンピューターを使ったデザイン、表現活動にのめりこんでいきます。
IAMAS卒業後は数年ウェブ制作会社に勤務した後、ウェブデザイナーとして独立し、セミトランスペアレント・デザインを設立します。2009年のYCAM(山口情報芸術センター)での個展が一つの転機となりました。「時間」と「フォント」をテーマにしたインスタレーション「tFont/fTime」を中心に近年のウェブプロジェクトを一堂に展示。自分としてはデジタルメディアを使った結構先進的なことをやっているつもりで、デジタル界のヒーローになれるんじゃないかと密かに期待していました(笑)。しかし実際に話題にしてくれたのはデジタル系よりグラフィック系の方でした。しかもG8(クリエイションギャラリーG8)が声をかけてくれて、翌年同じ内容の展示をすることになりました。
デジタル業界はできたばかりで新しい技術が次々と出てきます。それに対応しているだけで新しいものを作っているという錯覚に陥っているように思いました。僕は技術の新しさを引いても残るのような作品を作りたかったので、そういったスタンスがグラフィックデザイナーの人たちと近かったのかなと思います。グラフィックデザインも最後は印刷の網点に落とし込む必要があるし、デジタルも結局は数字や記号による通信です。原理を理解してその中でどういう表現ができるかを考えるところが興味を引いたのかもしれません。
また一方で、僕自身グラフィックデザインの世界は歴史の積み重ねがあり重厚な世界だと思っていました。ルールや作法が支配的な世界なのかと。それがG8での展示をきっかけにグラフィック業界の人たちと交流するようになり、例えば葛西さんや服部さんといった人たちの作品の革新性に気づかされました。紙に印刷という決まった手段の中で、常に新しいことをやろうとしている。一度確立したものを捨てて次のことを考える姿勢に、デジタル業界以上の自由さや柔軟さを感じて、大きな刺激になりました。
その後自分の制作領域も広がり、ポスターなど紙媒体のデザインを手がけることも増えています。ただ、造形面では周りに猛者がたくさんいるので(笑)、自分らしくデジタルメディアの方法論をうまく取り入れることを大事にしています。
今回の「POSTERS」のための作品は、告知をするためのものではなく、部屋にインテリアとして飾るものと捉えたときにどういう機能を持たせるか、その設定から考えていくのが面白かったです。人がポスターを所有するときに、ただ家に飾って良しではなく、それを持っていることを周りに見せびらかしたい世の中になっています。所有者がSNSで発信するのではなく、作品側にその機能を持たせられないかと考えたのが、Googleのスプレッドシートで作品の購入者をリスト化してWeb上で公開するアイデアです。さらにはスプレッドシートのリスト自体がポスターのデザインにもなることで、デザインと仕掛けが一体となった作品になっています。
この作品はNFTへの当てこすりのような側面もあります。職業柄、NFTに関して聞かれることも多く、良いも悪いも両方の気持ちがあります。作品を管理し、作品の価値を保証するという考え方自体は賛成しますが、何かのプラットフォームに依存しすぎるのには抵抗があります。作者が自分で購入者を管理できていればNFTと同じ構造になるし、そうやって作り手と買い手がダイレクトにつながることこそが大事なのではないかとも思います。
同じく今年参加した「グラフィック・トライアル」では、ポスターの下にライトボックスを敷くことで、印刷に光をのせる表現にトライしています。一見ランダムな線画は、線以外の部分が遮光されており、線だけが光を透過しネオン管のように光ります。「5 sisters」という作品で、ソフィア・コッポラの映画「ヴァージン・スーサイズ」に登場する全員自殺してしまう5人の姉妹をモチーフにしています。青い線は姉妹の顔の輪郭、赤は年齢、緑は名前を表し、ライトボックスの光は誕生順に付き、自殺する順番に消えることを繰り返します。
この作品は、5枚のポスターをつくるというグラフィック・トライアルのルールから発想しました。単に光るだけのエンターテイメントにはしたくなくて、生命のON/OFFというコンテキストを添わせています。「5」という数字からジャクソン・ファイブも発想しましたがスカした感じが強すぎると感じたし、同じ生死の表現でも絵画で引用される「最後の晩餐」のようなものは自分にはリアリティがない。最終的にサブカルのコンテンツとなりました。中学生の時にXのCDで仲條さんのデザインに出会ったように、グラフィックデザインはどこか身近なもの、という感覚があります。ハイカルチャーよりも俗っぽいものの持つ儚さが好きなんだと思います。
※2022年7月23日まで「グラフィックトライアル2022 -CHANGE-」にて展示中
(https://www.toppan.co.jp/biz/gainfo/graphictrial/2022/)
田中良治のポスターを見る