2022
04.11
INTERVIEW
ポスターとの出会い / 植原亮輔
ポスターを認識した最初の記憶、若い頃に影響を受けた作品、自身がポスターと対峙したエピソードまで、「ポスターとの出会い」をテーマに、今回“POSTERS”に出品するグラフィックデザイナーの皆さんにお話を聞きました。
僕はグラフィックオタクだったので、学生の頃は新しい作家を知っては好きになる繰り返しでした。中学生の時に好きになったマーク・コスタビから始まり、日比野克彦さんやサイトウマコトさん。本屋で偶然出会ったサイトウさんの作品集は、高校生ながらに「日本でこんなかっこいいグラフィカルなポスターをつくる人がいるんだ」とめちゃくちゃ憧れました。
海外の作家だとジョバンニ・ピントーリやハーバート・バイヤーも好きでした。大学はテキスタイル専攻でしたが、 周りと同じように服をつくるのではなく、自分なりのアプローチをしたいと考えていました。グラフィックが好きだったので、布を染める前の原画をしっかり描くことにこだわり、当時はテキスタイル的なグラフィックをよく見ましたね。
本の中ではなく実際に貼られたポスターの最初の記憶は、ドラフトが制作したラコステの広告です。高校生の頃、札幌の地下鉄の構内に貼ってあって、思わず立ち止まってじーっと眺めたことを思い出します。ポロシャツを重ねているだけなのに、こんなにきれいなグラデーションが表現されていることに感動しました。コピーとビジュアルの関係性も明快で、今見ても広告表現としての完成度に驚かされます。当時はどこの会社がつくったか知りませんでしたが、数年後就職活動をする中でドラフトが手がけたことを知り、その後の自身の入社にもつながっていきます。
ドラフトではさまざまなポスターをつくりましたが、初期の仕事で印象に残っているのはミハラヤスヒロのポスターです。大学の同級生だった三原康裕は、当時すでに若手の靴のデザイナーとして注目されていました。そんな彼からショップオープンのポスターやインビテーションを相談され、まだ入社2年目で経験が浅かった自分は、先輩の日高英輝さんにアートディレクターとして入っていただきながら、デザインを担当しました。
靴を並べると世界地図に見えるという日高さんのアイデアのもと、靴の立体感は残しながらもシルエット的な見え方にすることで、地図にも見えてくるちょうど良い表現を狙っていきました。制作費が限られていたので自分で撮影したり、背景のテクスチュアはマスキングテープをスキャンしてつくりこんだり、経験をアイデアや実働でカバーしながら細部までとことんこだわった作品です。
同時期に取り組んだベーカリーカフェCaslonの仕事は、その後渡邉良重と協働するきっかけにもなった作品です。 ロゴから空間サイン、お店の食器類、ユニフォームや備品、さまざまな広告や販促のツールまで手がけた壮大なブランディングのプロジェクトでしたが、最後に残ったのがポスターでした。渦巻状のロゴから展開した竹とんぼや輪投げ、薔薇などをモチーフに、Caslonから街に文化が開花していくイメージを表現しました。
アイデア自体はシンプルですが、グラフィックの表現としてはかなり凝っています。イラレのデータをカラーコピーで出力してみたら、その色合いが良かったのでそれを版下として使用したり、実際に回した竹とんぼを写真に撮ってスキャンしてデータ化したり。今はテクニックや知識を通じてアプローチの成否を見極めやすいのですが、若い頃は近道を知らず、いろんなことを試して、たくさん寄り道しながらデザインしていました。時間はかかっていましたが、今見てもすごく丁寧に凝ったものをつくっていたと思いますね。
ミハラヤスヒロのポスターもそうですが、写真や出力を組み合わせていくような手法は、サイトウマコトさんのコラージュ作品がヒントになっていますし、カラフルな色展開はハーバート・バイヤーなど、若いときによく見ていた作家から受けた影響もあります。
一方で、自ら新しい手法を開拓した作品もあります。2005年に手がけた、デコレーションケーキをモチーフにしたラフォーレ原宿のポスターがそうです。当時のラフォーレにはさまざまなサインボードがあり、その中の一つにツリーのような形をした独特なサインがありました。その形にどうデザインを展開するかが難題で、考えたあげく細かいパーツを並べていくことでデザインを成立させる手法にたどりつきました。このやり方であれば、どんな形にも対応することができます。
具体的には10種類程度のケーキをデコレーションするためのパーツを用意し、それをひたすらコピペすることによってデザインがつくられています。ケーキのクリームを絞る作業をデータ上で行っているような感覚で、デザインという行為にいつもとは異なる新しい感覚をもたらしてくれた作品です。